4人が本棚に入れています
本棚に追加
.
「この店はオレを舐めてんのか!!」
響く怒号に俺は反射的に顔をしかめた。目の前でまだ喚くサラリーマン風の男は、俺が弁当に箸をつけるか訊いたことがたいそう気に入らないらしかった。
スーパーでバイトを始めて2年、ここまで変なクレーマーは初めてだ。
「申し訳ありません」
俺はため息をこらえて頭を下げた。
この手のクレーマーは、店員が自分に逆らえないことがわかっていて無茶苦茶なことを言ってくるものなのだ。
「申し訳ありませんじゃないんだよ!」
「すみません」
ひたすら頭を下げていると、背後に人の気配がした。誰がそばまで来たのか、振り向かないでもわかる。狭いレジ台の中、いつもと同じ香水の匂い。
「けんちゃん、なにかあった?」
「なんだこの女は?」
クレーマーが不審そうに言う。そうだろうな、何しろ宮沢真白(みやざわましろ)、この女はこの店の店員じゃない。だから私服だし長い髪も結わえずおろしている。
「私はけんちゃんの許婚だよ?」
真白はあっさりと言う。
「はあ?」
最初のコメントを投稿しよう!