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男はまじまじと真白を見た。
真白は俺の横に立つ。
「けんちゃんが何かしましたか?」
冷静な声で真白は訊いた。
「こいつが、割り箸がいるかって訊いてきたんだよ!黙ってつけりゃいいのに!常識がない!」
男は思い出したかのようにわめいた。
真白はふうん、とつぶやく。男はそのリアクションに一瞬呆気に取られたようだった。
クレーマーというのは、自分が反撃されるのを想定していないのだ。人の心を踏みにじっている自覚がない。踏みにじられた人間がいつか牙をむくなんて想像もしていない。
真白は肩から下げていたポーチから、カミソリを取り出した。男はぽかんと口を開ける。
カミソリは、凶器だ。
でも真白が誰かを切りつけたことはない。
真白は握ったカミソリで自身の左手首を切りつけた。既に傷だらけだった手首に、また新しい傷口が開き、赤い血が玉のように溢れ出す。
「けんちゃん傷つけたら、私が手首切るの。つまり、けんちゃんを傷つけたらおじさんが私を切りつけたことになるの」
相変わらずのめちゃくちゃな理論を真白は口にして笑った。
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