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小西さんこと、小西清次郎(こにしせいじろう)さんは、泉さんの大学時代の先輩で、職場の上司でもある。
彼は大学時代から泉さんに思いを寄せていた。
私はそれを知りながら、泉さんを好きになってしまった。
小西さんがずっと温めていた恋情に土足で踏み込んだのだ。
胸が苦しくなるような、自己嫌悪に駆られる。
けれど、泉さんに傍にいて欲しい。泉さんの愛情が欲しい。という欲にまみれた情動は、目をそらしても、心に蓋をしても、静まらなかった。
どんなに否定しても誤魔化しても、泉さんへの想いは時間が経つごとにどんどん膨らんで大きくなって、到底太刀打ちできるような代物じゃなくなっていた。
苦しくて、気持ちを吐き出さずにはいられなくて……。
『あなたが好きです。あなたが欲しいです』
自分の欲望のまま、思いのたけを告白した。
「光はさぁ~、まあこれでも進歩したとは思うけど、もっと我儘になってもいいんだよ?
はっきり言いたいことをズバッ! と言っていいんだからね?」
「明子はそう言うけど……、泉さん社会人だよ?
しかも超ハードに働いている人に我儘なんて……。
そもそも、何を言ったらいいかもわからない……」
「相変わらずねぇ~」
明子はから揚げを摘みあげて、私の口の前に浮かべた。
なに? 食べていいってこと?
私が、あーんと口を開けたら見事、から揚げが口の中に飛び込んできた。
「そうそう、そういうこと!」
咀嚼しながら、嬉しそうに笑う明子を首をかしげて眺めた。
相変わらず彼女は、私以上に私の事をよく分かっていらっしゃるみたいだ……。
「つまりね。目の前に欲しいなあ~、と思ったものがあったら、何も考えないで口を開ければいいってこと!」
「けど~……」
「泉さんもきっと、光の我儘なら涎垂らして喜ぶよ!」
そう言って、くっひひひ、と厭らしく笑った。
もう、何の話だ!?
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