☆ 宝田小枝子

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☆☆  3月の大学は、ほとんど人がいない。  卒業式も終わり、本来なら授業もないこの時期に大学に来る生徒といえば、そろそろ始まる就活の準備のため、それか私たちのようなゼミ(研究室)の準備のため。  明子も私も4月から大学3年生になる。  3年生になったら、就活を見据えたゼミに入り、それぞれの道へと進んでいく。  明子はてっきりバイト先である出版社に就職するのかと思ったのに、本人曰く『まだまだ抗いたい』とのことで、只今考え中だそうだ。  私はどうしようか、正直すごく迷っていた。  将来何になるつもりなのか、どんなことをするつもりなのか……、まだ決めかねている。  やりたいことがないわけじゃない。でも……。  私は先日かかって来た電話を思い返した。  小枝ちゃんと話をしたのは何年ぶりだっただろうか。 『久しぶり。突然ごめんね。  あのね、やっと正式に籍を移すことにしたから、その連絡。  それと、先月弁護士の沢村さんから連絡があってね。  近々光の方に連絡が行くと思う。全て任せるからよろしくね』  小枝ちゃん。本名、宝田小枝子(たからださえこ)  私の実母の妹は、忙しそうにそう言った。
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