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私には両親の記憶がない。
生まれて何か月かで、母の実家である宝田家に引き取られて、養女となった。
だから戸籍上では、15歳離れている叔母と私は、姉妹ということになっている。
今でこそ、その関係を理解できるけど、子供だった私は当然のように祖父母をお父さん、お母さんと呼び、叔母を『小枝ちゃん』と呼んでいた。
いつだったか――、確か私は小学校低学年生で、その日は父親参観日だったと思う。
周りのお父さんに比べ、自分の父親は明らかに年齢が上だった。
初めて他の家のお父さんとは違う、と認識した瞬間だった。
そこには、父親を恥ずかしく思う気持ちが含まれていた。
そんな私の心情を見透かしたように、クラスメイトに『今日はおじいちゃんが来てくれたの?』と聞かれた私は何の反論もできず、ただ顔を赤くして俯いてしまった。
いつまでも顔を上げない私を見ていた父は、その時何を思っていたのだろう。
父は学校からの帰り道【養女】という言葉と、その言葉の意味を教えてくれた。
そして、私には別に母親がいて、私を産んだ後亡くなった、と聞かされた。
『確かに私たちは親子ではない。しかし、血の繋がりがある家族だ。
だから何も心配しなくていい!』
父は私が痛いから離して欲しい、と訴えるまで、私の手を力強く握り続けた。
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