☆ 宝田小枝子

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 父や母が実は祖父母で、小枝ちゃんは叔母さんだった、と聞かされても、私の生活そのものは特に変わることはなかった。  ただ両親が私に向かって微笑むときに時々感じていた違和感、のようなものの正体がわかった、というだけの話。  だって、私たちは確かに家族だったと思う。  ごく普通の、どこにでもあるような家族だった。  そしてこの時の私は『当たり前』とか『普通』というものが、どれほど危うくて儚いものなのか、想像もしていなかった。  図らずも『普通』が簡単に壊れる瞬間に、当事者として立ち会った今なら、あの頃ぬくぬくと暮らしていた私こそが普通じゃなかった、って身に染みて感じる。  私が中学1年生の時に父が亡くなり、翌年には母が亡くなった。  あっという間の出来事だった。  二人が相次いで亡くなり、私は途方に暮れてしまった。  何不自由なく、寂しい思いをしないように、とたくさんの愛情を注いでもらっていたから。  まさか、こんなにもあっさりと掌から零れてしまうとは思わなかった。  残された私と小枝ちゃんは、この世に二人きりの家族になってしまった。  そして四人から二人になったそのバランスは、少しずつ傾いてしまった、のだと思う。  ”思う”というのは、結局小枝ちゃんと話らしい話をすることもなく、音信が途切れてしまったから。  私の事が嫌になったのか、それとも別の理由があったのか、それすらもわからない。  それまで住んでいた家を売却し、今住んでいるこのマンションの部屋を買った小枝ちゃんは、わずか2年で出て行ってしまった。  
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