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「光さん、逃げたらダメでしょ。
疲れたのなら、私の筋トレに付き合ってください。
光さんを抱っこしたままスクワットするんだから!」
「な、なんですか!? それ……。
ダメです! そんなことしたら、傷に障ります!」
「やっぱり……、傷を気にしているんですね。もう大丈夫なのに」
泉さんは、ほら見て! 見て! とばかりにその場で空手の型を披露した。
私が空手を始めたのは小学生の時だった。
確か……、知らない男性に追い回された経緯があって、心配した父が護身術のために空手を習わせたのが、きっかけだったと思う。
けれど私は、護身術よりも空手の『型』の美しさに魅せられて、熱心に練習に励んだ。
結果的にはそれが両親の思いとも一致したし、私自身、空手を続けることで肉体的だけじゃなくて、精神的にもプラスになったと思う。
さすがに大人になった今は、習う側から教える側へと立場は変わったけれど。
泉さんは、私が受け持っている【成人空手教室】で初めて空手を習ったという。
一般向けの空手教室なので、特にハードな練習をさせた覚えはない。
それなのに、もうかなりの型を習得していた。
シュ、シュという音と共に、一つ一つの型が綺麗に決められている。
その綺麗な姿に見惚れていると
「たぁー!」
拳がすぐ目の前で止まった。
「光さん、さすがですね。瞬きさえしない。見切られてるなぁー」
満足そうに笑って、腕を下した。
「でも……隙だらけですよ?」
そして大股で一歩踏み出し、私のすぐ目の前に顔を近づける。
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