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この声色は――。
だんだん、分かって来た。
泉さんが「好きです」って囁く時の、泉さんの声色。
この日のこの声色は、何かがあって心が揺れている時のもの。
不安なことがある時のもの。
だから、私も背中に手をまわした。
「私もです……、好き、です」
大丈夫です、と声に出さずに呟きながら、肩におでこを当てた。
少しの間そうしていると、泉さんはゆっくりと抱擁を解いて、今度は私のおでこに唇を当てた。
「ここの近くで夕飯でもいいですか?
その後……私、署に戻ることになっていまして……」
あ……、この後も仕事だったんだ。
泉さんは刺された後もすぐに職場に復帰し、ほとんど休みなく働いている。
警察官は休みがないのが当たり前、とは聞いているけれど、本当に忙しい。
社会人なんだな。しかも警察官なんだな。って、嫌でも認識してしまう。
その上、滅多に仕事の話はしない。
だからこそ、時々無性に心配になる。
危ない目に遭わないだろうか、無理はしていないだろうか……って。
簡単な夕飯を食べた後、私の部屋の前まで一緒に歩いた。
別れ際、頬にキスされて、ドキドキしている間に、もう廊下の先まで移動している。
そして夜だから小声で「好きでーす」って言いながら手を振ってくれた。
この時の『好きでーす』は『リセットできました』かな。
その顔を見ると、私も安心して手を振り返すことができる。
今度会う時までどうか何事もありませんように……と祈りながら。
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