終:秋冷の園に涼風流れ、ナオキの純心、学舎に新たなる伝説を残

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終:秋冷の園に涼風流れ、ナオキの純心、学舎に新たなる伝説を残

 夏休みも後半に入っていた。  あれから2週間、美由紀はナオキの前に現れていない。  浦田佳代の話では、音楽室にも来た形跡が無いと言う。  玄之丞には出たらすぐに知らせてくれと言われている。  一体どこに行ってしまったのか?  ナオキは今夜も部屋を暗くして待っている。  妙なものだ。  今はもうこの部屋に美由紀がいないことのほうに違和感を感じる。 (今夜も来ないか)  ナオキが諦めて寝ようとした時、窓は閉めてあるはずなのに部屋の中に生暖かい風が吹いた。 「ナオキ君……」  ベッドとは反対側の壁際に、美由紀が立っていた。 「美由紀!?」  美由紀の姿がハッキリ分かるくらい薄くなっている。  青白く輝く燐光も、以前ほど強くない。   美由紀の身体を透かして、向う側の壁が見える。 「どうしたんだ?」 「ナオキ君、ごめんね」 「なんだよいきなり、どうしたんだよ?」  美由紀の顔は深い悲しみの色を浮かべていた。 「流産しちゃったみたい……ごめんね、ごめんねナオキ君」  美由紀の両目から透明な液体がポロポロと流れ出す。  見れば、美由紀のウェストが以前の折れそうなくらいの細さに戻っている。 「あの時か? 玄之丞か? ヤツの攻撃で流産したのか?」  美由紀は無言で頷いた。  美由紀の涙は止まらない。  後から後から流れ出す透明な雫。 「クソっ!」  ナオキはベッドを思い切り蹴り飛ばした。 「今日はお別れを言いに来たの」 「なんでだよ?」 「もうこっちにいてもしょうがないから。本当はもっと早くあっちに行かなきゃいけなかったの」 「待てよ、もうちょっとこっちにいろよ!」 「死ぬ前に……じゃなくて、死んでからナオキ君と恋人になれて幸せだった」 「じゃあ行くなよ。まだいいだろ?」 「ダメなの、もうこっちに未練が無くなっちゃったから」
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