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自分勝手だということは十分に承知している。
けれど、葵が自分に抱いている気持ちが消えるなんて、そんな、こと。
許せるわけがない。
「俺がもしも、お前のことが好きだって言ったら、どうする」
二人の髪を風が撫でた。
葵は亮太の言葉に目を丸くして、口を小さく開いたまま暫く固まっていた。
亮太の言葉を理解するのに今度は時間が掛かったらしい。
そして理解して、何度か瞬きを繰り返すと葵はそっと端正な顔に笑みを浮かべて、そして、言った。
「そういう冗談、いらねーって」
そう、言ったのだ。
それは紛れもない、拒絶。
亮太の手からするりと抜け出し、葵は「あんまそういう冗談言わないほうがいいぞー」なんて、「本気にする奴だっているんだからな」なんて、言うのだ。
(ならお前が本気にしろよ)と、亮太は最高潮の苛立ちにひくひくと口元をひきつらせながら、葵の背中を睨んだ。
拒まれて、しまった。
決してそれは仕返しで葵がわざと拒んだ訳じゃない。
純粋にそう思って言ったのだろう。
亮太がもし自分を好きになるなんて、と、信じられなかったからそう言ったのだろう。
ああ、ああ、イライラする。
焦りが大きくなる。
(ーー…認めてやるよ)
この時、亮太は漸く葵に抱いてしまった己の気持ちを認めた。
葵を目で追うようになって、葵のことばかりを考えて。
知らないうちに友人である葵に抱いてしまった、気持ちを。
葵のことが、好きだという気持ちを。
(…ぜってー、このまま逃がしてなんてやらねえ)
ーーー捕まえてやる。
自分がまさか誰かを好きになるなんて。
相手を追う程に、好きになるなんて。
亮太は一度だけゆるりと口角を上げたあと、すぐに無愛想な表情へと戻り葵のあとを追うために走り始めた。
【完】
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