好きの定義

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あの日。 亮太が葵の気持ちを知った日。 その日から数日がたった頃から亮太は知らず知らずのうちに葵を目で追うようになっていた。 そしてそれと同時に亮太は葵に苛立ちと焦りを抱くようになったのだ。 そんな自分に気がついて、亮太は余計苛立ちを感じた。 何故自分がこんなにも振り回されなければいけないんだと、苛立った。 葵は諦めると言った。 今までと変わらない様子で、好意を向けてくる事はない。 ならば良いではないか。 亮太はそう己に言い聞かせるが、やはり苛立ってしまうのだ。 葵を目で追って、苛立って、焦って、葵の事ばかりを考えて。 (俺のことが好きなんじゃねえのかよ) (嘘なんだろ?俺のことが好きだなんて) (嘘じゃないなら、ならなんでそんないつも通りなんだ、お前) (俺のことが好きならもっと俺のことをーー…) (………わけ、わかんねえ) これではまるで、ーーーまるでまるで。 そう、まるで、亮太が葵のことを好きなようではないか。 ーーー笑えねえな。 そんな己に気がついて頭を抱えて、亮太はポツリと、葵を拒絶した言葉を今度は己に吐き捨てた。 「お前さ、本当に俺のこと好きなわけ?」 学校からの帰り道、亮太のそんな唐突な質問に葵は「え?」と、目を丸くした。 パチリ、一度瞬きをして、亮太の言葉を理解して葵は一度だけ小さく頷いた。 「そうだけど」 「ふぅん」 そのわりには、全然そんな感じが全く一切しないんですけど? 葵があからさまに好意を向けてこなかった事に安堵していたくせに、何を今更。 なんて、亮太は己を嘲笑う。 ーー亮太、どうした? 葵はそんな亮太の心中なんて知らず、そう問いかける。 その黒い瞳で亮太を見上げて。 その黒い瞳に、彼の黒い瞳に亮太の心は余計揺さぶられるのだ。 揺さぶられて、苛立ちと焦りでぐちゃぐちゃになって、(ああ、キモチワルイ)凄く、不快な気分になる。 (大体、俺は何に焦ってんだ) 考えながら、亮太は口を開いた。 「お前見てると、イライラする」 「え?」 「お前が俺のことを好きとか、ふざけんな」 「…だから、諦めるって言っただろ?」 そりゃあすぐには無理だから、少し位時間をくれたっていいじゃないか。
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