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私は彼が大好きでした。 私は彼女を大切にしていました。 私は彼に感謝していました。 私は彼女を尊敬していました。 私は彼を羨ましく思っていました。 私は彼女に沢山助けられました。 私は彼に帰せていない恩がありました。 私は彼女の御飯に満たされました。 私は彼の大きな背中で眠っていました。 私は彼女の細い腕の中で育ちました。 私は 彼を 愛していました。 なのになぜだろう。 思い出せない……――――彼が、彼女が、誰なのか。 『思い出さない方が、あなたはシアワセになれるよ』 顔が傾き、長い髪がふわりと揺れた。 Deja Vu 嗚呼、私はこの女を知っている。 『世界を望めば、あなたはシアワセになるの』 ひたすらセカイの改変を望む、顔を持たないこの可哀想な少女を。 顔のない少女はニコリとほほ笑む。 まっさらな其処に、わたしは自分の笑顔を想像した。
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