0人が本棚に入れています
本棚に追加
『楽しかったことと苦しかったことを比べたら、どんなに頑張っても苦しい感情しか貴女には無いんだよ』
彼女は言う。
私は不幸であったと。
哀しい境遇に生まれ、育ち、自分を殺して生きていたのだと。
大切だった人の記憶を失うほどに。
そう。
確かにわたしは思い出せない。
わたしにあるのは記憶だけで、そこに感情は伴わない。
これを何と表せばいいのだろうか。
わたしの中の何かが波打つのを感じる。
『悔しい?思い出せなくて』
くすくす。彼女の笑声が耳に障る。
『仕方ないよね。あなたは実態を持たない、バラバラ人間の一部だもの』
頭が割れそう。
考えれば考えるほど、思い出そうとすればするほど前進し何かが巡って破裂しそうだ。
わたしは思い出せない。
ザンコクだったあのセカイで、わたしがこんなにも【失いたくない】と感じる相手の顔や声を。
どろり
生ぬるいエキタイが頬を伝った。
最初のコメントを投稿しよう!