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近づくに連れて、"それ"はより濃くなってゆく。
野次馬でごった返す交差点は、まだ先へと進めそうにない。
やっとの思いでその現場らしき場所に流れ着いた時に、由隆はその正体がなんであるかをようやく悟った。
──血、血、血。
焼き焦げたトーストのように黒いコンクリートにこびり付く、どす黒い液体。それはさながら、無尽蔵に分裂し拡がっていくアメーバのようであった。
つん、と鼻を突く異臭に彼は思わず顔をしかめる。
人々の隙間から垣間見えた現場は、凄惨であった。
まだ真新しいブレーキ痕。
途絶えた先にうずくまる、ひとつの影と大量の血痕。
四肢は投げ出され、左腕と右足はあらぬ方向へと曲げられている。
そして"それ"は、見覚えの有りすぎる人物だった。
気が付けば後ずさっていて。
しかし、不思議と現実を受け入れようとしている自分がいることに、由隆は気づいていた。
「あぁ、そうか。僕は──」
由隆はそこで、ポケットから一台のスマートフォンを取り出して、コールタールのように黒くなおも沈黙を貫く液晶画面を覗き込んだ。
澄んだ青い青い空に散らばる白い軍勢と、孤高に照らしつける淡黄色の光が、鬱陶しいほどに自身の存在を証明していた。
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