1 かくとだに

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1 かくとだに

「あなや!」 叫んだ侍女たちが次々と逃げて行く。 警備の侍たちがバタバタと具足を鳴らして駆けて来、 「おのれ、何奴!」 「であえー、であえ!」 声をあげる。 ここ三間坂領の城内、内庭の中に女がひとり打ち臥していた。 白い小袖に打掛を羽織った女性(にょしょう)の姿だが、地面に両手をついて、まるで土下座しているように見える。 だが、どこかおかしい。 謝罪するなら額も地に押し付けているはずだが、顔は睨みつけるように正面にあげている。 その顔が不思議なものでもみるように、キリキリと横に倒れていった。 キリキリと――、 横に倒れて、倒れて――。 90度よりもっと、いまや頭の方が地面に近い。 顎が天を向いてしまっている。 人間には不可能な姿だ。 ひどく禍々しい。
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