1 かくとだに

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「キシャーッ!」 女が叫び声をあげた。 その口は真っ赤で、見るも恐ろしい牙が生えている。 舌が異様に長く尖っている。 「おのれ、化け物!」 女の頭上に振り下ろされた刀が、 ――キン―― 音を立てて、女の手のひらによって受け止められた。 違う。 爪だ。 長く伸びた爪が、つばぜり合いをするように、真剣を受け止めていた。 ――ザン! 女の爪のひと振りで侍は肩から血を流してなぎ倒される。 尋常な力ではない。 続けざま、女は地についた四本足で飛ぶように跳ねると、倒れた侍に覆いかぶさった。 「ギャーッ!」 男の喉から断末魔の悲鳴が漏れる。
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