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庭は、女の妖怪を取り巻いて、人が弧を描いていた。
誰も声すら出せず、不気味な静けさに包まれる。
そんな中、
「キシシシシ」
妖怪は笑った。
「三間坂秀三郎盛影、どこじゃ」
気味の悪い声で、城主の名前を呼ぶ。
「秀三郎はどこじゃ」
四本足で、虫のように妖怪は進んでいく。
妖怪の進む道が、割れたように開いていった。
侍の流した血が女の黒髪にべっとりと付いている。
誰も、この妖怪に立ち向かおうとする者はいなかった。
ところが、
「誰(たれ)じゃ」
凛とした涼やかな声がして、女の妖怪はザッとそちらを向いた。
白い大輪の菊の模様の打掛を羽織った若い姫が、妖怪に対峙していた。
「父上の名を、そのように粗野に呼びやるでない」
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