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「別に大した理由はねーけど」
テーブルに肘を置き、テレビの画面を眺めながら先輩は普通に言い放った。
「母親が花が嫌いなんだよ。俺の父親が蒸発したときに、花を一輪だけ置いて出て行ったんだと。だから、花にはいい思い出がねーから飾るなって」
どくん……っと、心臓が重く鳴った。
先輩は平気そうに言っているけれど、間違いなく今、触れてはいけない事に触れてしまったんだと気付く。
「ご、ごめんなさい……私……」
「別に謝る事はねーだろ」
「だって……花にそんな思い出があるなんて」
「思い出っつーか……母親が言うには俺の父親も花や緑が好きな男だったんだと。だから、俺がそういうの好きなのは遺伝だって言ってたかな。
どーでもいいけどな、いない父親に似てると言われようがどう言われようが」
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