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心底間抜けな声と口を開けたままの私を瞳に映しながら、泉先輩はとうとう答えをちゃんと教えてくれた。
「芹沢……芹沢 繭香。俺の好きな奴の名前。お前の事が好きだってことだよ」
首を傾げながら言ったから、先輩の糸のようにサラッとした髪は揺れている。
それに見惚れてしまって、私はまた理解するのが一歩遅れてしまった。
でも、先輩は優しくて……
こんな私が先輩の言葉を理解するのを、ずっと待っていてくれた。
こんな先輩、泉先輩じゃないみたい。
でも、頬を撫でる親指はざらっと荒れているけれど温かい。
先輩そのものみたいだ。
「今日、お前と一緒に過ごせてマジよかった」
その言葉に激しく首を何度も頷けた。
そしてとうとう私は泣き出してしまって、自分の両手で顔を覆う。
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