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「そんなものですかね。ぼくたちは商売も研究もしないのでわかりませんが、それでも自分たちが手にかけた機械が世の中に出て役に立てば嬉しいですよ」
「その点では、お役に立てなくて申し訳ございません」
「いえ、やはり残念なのは宮野さんの方でしょう。助成金の方はいずれまたチャレンジしていただくとして、今度は上手く商品化に漕ぎ着けられると良いですね。もっともそのときには、ぼくは担当を外れているかもしれませんが……」
互いに相手を探り合ったわけではないが、二人の間に関連性がないので仕事の話をするしかない。
それでも初回の様子見デートにおけるわたしの夫に対する印象は悪いものではなく、このまま付き合い続けても良いかな、と思えるほどの結果となる。デートに誘われた当初、まるで相手の心が読めなかったときの自分の感情と比べれば雲泥の差だ。
が、深みに嵌って良いものか。
わたしの脳裡を一抹の不安が過ぎって行く。
わたしの側からの一方的な印象だが、おそらく彼はわたしのことを好いているという感覚がわたしにはある。それはそれで素敵なことだが、あのときのわたしはすでに比内くんに一目惚れ状態にあったのだ。
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