母と妹のこと

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 偶然とはいえ母の浮気を知ってしまったのは、わたし自身の心の揺れが関係するのかもしれない。  客観的に評価して母は悪い人間ではないだろう。物心が付く前から母という人間に育てられた子供としての評価は甘くないが、やはり悪い人間だとは思えない。けれども硬い人間であるとは思う。また冷たい人間であるとも……。  わたしと妹という二人の娘を育て上げたのだから、一般的な母親としては及第点なのだろうが、それは単に義務を果たしただけ、という気がわたしにはする。  日常生活の中にはもちろん笑顔があったし、おそらくそれは嘘ではないのだろうが、その裏にもう一枚別の表情が隠されているような気がずっとしていて落ち着かない。  母と娘とのどうしようもないような蟠りは、ある年齢を越え、自分も似たような境遇になってしまえば霧散していくものなのかもしれないが、それでも何処かに鋼のような硬さが残り、それがわたしに対する拒絶のように受け取られてしまうのは何故なのか。  実際にはそうでないのかもしれないが、子供に対する愛情に欠けているようにも感じられる。  もっとも広い世間には真の意味で酷い母親もいるわけで、自分の子供を邪魔者としか思えない女もいれば、モノとしてだけ認識している女もいる。それに比べればわたしと妹は十分に母から愛されて育ったのだろうが、最後の一点に違和感がある。  それがわたしに、本当は――わたしのことが――欲しくはなかったのだろう/間違って産んでしまったのだろう、と感じさせてしまうのだ。  妹は違う。  妹は間違いなく望まれてこの世に生を受けている。
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