家族と自分のこと

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 どうしておかあさんとおんなじかおにうんでくれなかったの、とわたしは母に訴えてはいない。  ……いないはずだ。  幼い頃に母の三面鏡を覗いて自分の顔それぞれのパーツに母の顔の同じパーツを見つけ出そうとした自分の記憶が今更のように浮かんでくる。わたしと母は部分的にはそっくりなのだ。それがあのときわたしが発見した事実。  目の形はそっくりだ。鼻の形はそっくりだ。口の形もそっくりだ。耳の上の方だってそっくりだ。  顎の形は子供と大人では異なるのでまったくそっくりと言えなかったが、それでもずいぶんと似た形をしている。  顔全体の輪郭だって真ん丸くて母とそっくりなはずなのに、しかしすべてをまとめ合わせると違うのだ。  同じ比較を父についても試している。すぐにわかったことだが、こちらの方はあまり自分に似ていない。どのパーツを比べてみてもそっくり加減が少ないのだ。  それなのに顔全体では良く似ている。父の輪郭は面長なのにも関わらず、わたしの顔は劣化した父の顔なのだ。  わたしの父は所謂今風のイケメンとは異なるが、わたしも母も好きなタイプの醤油顔のイイ男で、加えて同世代の男たちと比べて、かなり小顔。わたしも小顔で、ついでに首も細くて長くて、それだけは妹に勝っていたが、まあ、それくらいだ。けれども親戚の伯母さんなんかに不意打ちで、 「アラ、梓ちゃんってお顔が小さいのね」  などと指摘されると目尻が下がる。ついでに言えば脚も細くて長い方だが、それは妹も同じなので同点だ。  父方の祖父の影響なのか、わたしは幼い頃から図鑑が好きで祖父に良くねだっている。  妹の方にはそういう趣味はなくて、いつも元気よく遊んでいる。元気が良過ぎて私鉄のバスを止めてしまったことがあるほどだ。家族の誰も気が付かないうちに家を出て、バス通りの真ん中で道路に背中をくっ付けてグルグルと回って遊んでいたからバスが止める。  祖父は若い頃から自動車関連の仕事をしていて、妹が生まれる頃には車検用整備工場に勤めていたはずだ。サービスステーション勤務の時代もあったはずだが、わたしの記憶が定かではない。わたし自身はガソリンの臭いが苦手な子供で、それは今でも変わっていない。車自体が大好きだったというのに残念なことだ。
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