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と母は説明したが、それは事実だ。
性格が大胆なせいで傍目には元気一杯な印象を与える妹だが、風邪を引けばすぐに熱を出したし、それが下がらずに数日間寝込むこともままある体質なのだ。中学校の後半からはそんな虚弱体質とも縁を切りつつあったが、母の心配は長く続く。
わたしも幼い頃には調子を崩して年に数回寝込むことがあったが、母に付きっ切りで看病をしてもらった記憶がない。
当時はまだ元気だった祖母が家にいたからという理由はあるし、付きっ切りではなくとも母の手のスプーンから直接、缶詰の白桃を食べさせてもらった記憶はあるので、実際には十分構ってもらっていたのかもしれないが 。
……というふうに振り返れば、わたしの想いはやはりただの妹に対するやっかみなのだろうか。
「お姉ちゃんは優等生だから、お母さんは安心なのよ」
と妹は言う。わたしが、
「アンタはお母さんから愛されてて良いわね」
とふと愚痴を零したときのことだ。
「そうなの?」
「そうだよ。だって高校も、大学も、就職先だって自分でちゃんと決めてきて、旦那さんだって良い人だし……」
「ふうん。でも旦那は関係ないじゃない」
「何言ってんのよ。いまどき国家公務員だなんて全然安泰じゃない」
そんな妹もようやく結婚することができそうだ。
得な性格とはあるもので、妹の婚約者の比内(ひうち)くんとの出会いは偶然だ。妹のしていたコンビニ店のバイト先輩の友人で、そのバイト先輩から河口湖へのキャンプに誘われ、
「まあ、いいか」
と行ってみると比内くんがいたそうだ。
自分の大学の友人が連れてきた娘だからキャンプ中は妹のことに遠慮していた比内くんだったが、別の機会に今度は映画鑑賞会という名前の合コンで再び出会ったときに打ち解けたらしい。
それでもまだ二人の間に恋愛感情はなかったようだ。
そのバランスが崩れたのは妹の友人が不慮の事故で死んだときで、わたしもあんなに感情を毀した妹を見たのは初めてだ。
亡くなった里佳子ちゃんは小学校後半からの妹の友だちで、中学生の時には擬似恋愛関係にあったようだ。それを通り越してからは互いに仲の良い友人関係に変わったはずだが、相互依存は残ったらしい。
それで妹の感情の毀れ方が半端ではなかったのだろう。
号泣という言葉がある。
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