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翌週の土曜日の夜、筑前煮をメインにした夕食が終わり、薄く割ったエドラダワー十年モノを舐めている夫に、わたしは思い切って訊いてみる。
「わたしの母のことなんだけど、靖樹さんにはどう見えるかな」
「どうしたの。喧嘩でもしたのかい」
「いえ、そういうんじゃなくて……」
それから夫はわたしの顔をじっと覗き込み、
「話が長くなりそうなら梓さんも一杯飲んだら」
と口にする。それでわたしが、
「うん、そうしようかな」
と応えると、素早くグラスを取りに台所に立つ。ついでにチーズとサラミのつまみも切って持ってくる。
「なんて良く出来た旦那さんだこと」
「いろいろと忙しいのはお互い様だからね。で、きみのお母さんのことだけど、真面目な人だと思うよ」
「それだけ……」
「芯が強いかな」
「あとは……」
「家族を愛している」
「うん、そうなのよね。でも、それもわたし、母の芯の強さから来ているかもしれないと思えて」
「よくわからないな」
「今ではもう関係ないかもしれないのだけど、義務、みたいなものを遂行していただけ、とでも言うか」
「権利があれば義務があるのは当然じゃないかな。もっとも最近ではそれが真逆になっている人たちもいるみたいだけど」
「わたしは母に怒られたことはあるけど、でも、『アンタなんか嫌いだ』っていわれたことが一度もないの。だけど改めてそのことに気づいたのはつい最近で……」
「先週だね」
「わかるの」
「きみの夫だから」
「あのとき母が台所で言っていた意味が、わたし、どうやらわかりかけてきたようだわ」
「話が見えないな」
「ああ、でもそれはどちらでもいいの。ねえ、靖樹さんは、どうしてわたしにプロポーズしたの」
「今更、訊くわけ」
「だって何だかわたし、わからなくなってきて……」
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