深大寺でのこと

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 わたしの住む集合住宅は京王線笹塚駅のすぐ近くにあって、その京王線は始点の新宿駅から府中駅を過ぎるまで国道二十号線とほぼ平行して線路が走っている。  ウォーキングでわたしがこれまでもっとも多く通ったコースは国道二十号線(|甲州街道)沿いに調布駅まで歩くルートだが、身体の調子によってはショートカットをして千歳烏山駅やつつじヶ丘駅くらいで終えたり、あるいは西調布駅、東府中駅まで脚を伸ばすこともある。他にも三軒茶屋まで行って、その先電車を乗り継いで適当なところでウォーキングに切り替えるリバビリコースや小田急線の経堂駅まで歩いてから線路に沿って登戸駅か向丘公園駅(|さらには生田緑地に)まで向かうの足長コース、他には吉祥寺駅まで先に電車で行って善福寺川経由で家まで戻ってくるお疲れさまコースもあったが、今回の目撃譚には無関係だ。  前日のテレビ番組で深大寺特集を遣っていたのが悪かったのかもしれない。  それで国領駅の辺りでコースを体感的には右、地図的には北から北西に変えて三鷹通り経由で深大寺を目指すことに決める(|深大寺を通過する通常のコースとは逆のはず)。目指すといっても特に思惑があったわけではない。目抜き通りに着いても蕎麦を食す気はなかったのだ。  そんな心持だったからか、実際に深大寺通りに至ってみると人の多さに驚いてしまう。時刻は昼前だったが十一時に近かったので、観光客がいるのはわかる。バスツアーだってあるだろう。が、集まった観光客の数が尋常ではない。わたしがこれまで深大寺通りで見た中では一番ではなかったか、とさえ思う。  道が狭いこともあって、景色は違うが、竹下通りに近い混雑だ。年配の団体客がもっとも多いように思われたが、子供連れの若い夫婦の姿も散見される。若い恋人たちの姿は見当たらない。  はてさて、この混雑は昨夜のテレビの効果なのだろうか、とわたしが場違いな軽装で人込みの中をノンビリと擦抜けつつ、店の外にまで溢れ返った蕎麦狙いの客たちの会話を聞くともなしに聞いている。未だかつて入店したことはないが、水車小屋と手打ち蕎麦で有名な一休庵にも長い行列が出来ている。深大寺という土地は、わたしの住む笹塚の集合住宅からすぐ近くではないが、遠くでもない。だからなのか、観光地ではあってもわたしにはそう感じられず、それで名物と知ってはいても蕎麦を味わおうという気持ちが起きないのだ。
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