水底に囁く。

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「えっ? どうして? ぼく、体があるよ」 ぼくが戸惑っていると、人魚がふふ、と笑った。 「なにも不思議なことじゃないわ。ここはモノの世界ではないから、願うだけでモノが勝手に現れるの」 よくわからなかったけれど、ぼくは頷いた。 すごくいいことを思いついて、それどころじゃなかったのだ。 「ねえ、人魚さん!」 「なあに?」 「あのね、ぼく、すごいこと思いついちゃった!」 「それはなあに?」 「えっとね、人魚さんの代わりに、ぼくが扉の外の世界に冒険に行くんだ」 ぼくが言うと、人魚さんは怪訝な顔をした。 「ぼくが冒険をして、世界中の物語を集めてくるよ。そして、人魚さんに物語を届けるんだ!」 「物語を、わたしに届ける……?」 「うん。ぼく自信の冒険の物語も一緒に、いろんな物語を集めて、人魚さんに扉の向こうの世界を届けるよ」 人魚はしばらくの間、呆然としてぼくを見ていた。 そしてふと、きれいな顔をくしゃりとゆがめると。
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