水底に囁く。

3/12
前へ
/12ページ
次へ
さきをいく、銀色の人魚は、 ぼくをふりかえりもせずに、まっすぐに泳いでいく。 銀河のように輝く髪をなびかせ、 白磁の腕を、海をいだくように伸びやかに広げて、 蒼碧の玉のような鱗で覆われたひれを、優美にくねらせて、 海底の闇にうたかたの輝きをふりまきながら、 水のように、海のように、泳ぐ。 彼女はぼくをふりかえらないけれど、 決してぼくをおいて行ったりはしないと、ぼくは知っている。 ぼくは光のような、真綿のような、 ふわふわとして実体のないからだを、 漂わせ、移ろわせ、彼女について行く。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加