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彼女の向かう闇の先に、やがて、
巨大な真珠のように光を放つ、白亜の宮殿がそびえ立っているのが見えはじめた。
輝くばかりに白い宮殿には、金銀で精緻な装飾がほどこされ、
ところどころに、蒼碧紅紫の色とりどりの宝玉が散りばめられている。
深い闇と淡い光と、
ときおり地上に焦がれてのぼっていく泡以外にはなにもない、海底の世界で、
それだけが一つの希望のように輝いていた。
「ここはまだ、底ではないのよ」
宮殿の門をくぐりながら、人魚は言った。
気泡のような儚げな声は、しかし、海の水にくぐもることなく、まっすぐにぼくの耳に届いた。
(どういうこと?)
底でなければ、何なのか。ぼくはすぐさま尋ねた。
彼女が退屈しないように。彼女に飽きられないように。
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