降車駅

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 けれどやがて、その無表情をほんのわずかに和らげて、少年はあたしを見た。 「……すっげぇ、わかる」  言って、少年は草の上に座り込んだ。 その声は涼風のように軽かった。  あたしもその隣に体育座りをする。  不覚にも、少年の言葉が、自分でも情けないくらいに嬉しかった。 整然とした方程式で埋め尽くしたルーズリーフをビリビリに引き裂いたときのように、そのたったの一言は、あたしのドロドロでぐちゃぐちゃで重たい心を、津波のように呑み込んで洗い流していく。  体育座りの膝の上にあごを乗せて、笑みの形を作った口元から、「今回はね、」と、さっきよりもほんのすこし明るい声が滑り出る。 「学校始まるのが嫌で、どよーんってしてて、気がついたらいつのまにか、『あたしみたいな凡庸な人間はいてもいなくても変わらないんじゃないか』なんて悩んでたの」 「あー、たまにある」
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