降車駅

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 踏切を渡った先にはまっすぐに道路が伸びていて、左右に白いガードレールが道路と一緒にどこまでも続いている。 完全に車道だけど、歩行者のあたしはそのど真ん中を歩く。  濃いグレーのコンクリートの他は、右を見ても左を見ても田んぼだらけだ。  ガードレールから向こう、果てが見えないくらい続く、緑、緑、緑。 その中に、黒い点のように人影が見えた。 目を凝らしてよく見ると、おばあちゃんだ。  ここに来て、駅員さん以外で初めて人間を見た。 「よかった、人、ちゃんといるんだ」  稲と髪とTシャツの裾を揺らす青い風に、あははっ、と、小さな笑い声を乗せた。  こういう景色はいい。  広くておおらかで、空気の匂いが爽やか。 目に映る青と緑が、あたしの全部を洗い流してくれそうな気がする。 答案用紙やコンシェルジュ付きの高級タワーマンションや、きっちり折り目のついた膝丈のプリーツスカートなんか、なんてちっぽけなんだろうって思える。
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