降車駅

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 だから、そういうの見てると、なんとなく暖かい気持ちになる。  そんなことを思いながら、足の向くままに歩いていると。 「ん……?」  家と家に挟まれた、一軒の和菓子屋さん。 「御菓子司 京屋」と、看板が出ている。 わらび餅ののぼり旗と、くず餅ののぼり旗とが入り口のわきに並べて立てられ、あべかわ餅、桜餅、かしわ餅、おはぎ、ういろう、とマジックペンで書いたA4の紙が玄関のガラス引戸に貼られている。  その紙の前に、制服姿の坊主が立っていた。  それはもう、潔いほどの綺麗な坊主頭。 独断と偏見だけで判断すれば、十人中十人が絶対に野球部だと推測すると思われる。  和菓子屋に入るでもなく、それなのに店の方を向いて、玄関の前でじっと立っている、推定野球少年。  異様だ。 観光地でもない田舎町をカバンも持たずに、デジタル一眼ひとつぶら下げてうろついているあたしと同じくらい異様だ。
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