降車駅

8/26
前へ
/26ページ
次へ
 あたしはしばらく動かない背中を見つめていたが、あまりにも動かないので本物かどうか心配になって、 「おーい」  と、呼びかけた。  反応はない。 けれど、張り紙を見つめていた少年がほんのすこしだけうつむいたから、とりあえず生身の人間であることはわかった。  もしかして、甘いものが食べたいのだろうか。 けれどお小遣いが少なくて迷っている、とか。  きっとそうだ、と勝手に決め付けて、あたしはふと、さっき通りかかった駄菓子屋ののぼり旗を思い出した。 「ねえ、君」  声をかけながら、推定腹ペコ野球少年に近づく。 少年は振り返らない。 「ねえ!」  さっきよりも大きな声で呼んで、少年の顔を横から覗き込むと、少年は「おわぁっ!」と奇声を上げてのけぞった。 「さっきから呼んでるんだから、返事しろ!」 「は? 俺?」 「そう!」
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加