新学年スタート

1/15
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/140ページ

新学年スタート

2012年4月6日夜 府立西賀茂高校に通う高校生、東山敦子は自宅でせっせと明日の準備をしていた。 「上履きは入れたし、宿題も全部入れたし、あとは…」 「敦子、雑巾できたわよー」 敦子の母、明子が部屋に入ってきた。 「ありがとー…あれ、ミシンじゃなくて手縫いで縫ったんだ」 「そうよ。おばあちゃんがいつも雑巾は手で縫ってたからね…」 「そうなんだ…」敦子はぼんやりと祖母のことを思い浮かべた。 敦子の祖母、愛子は霊能者で様々なテレビに出たり、徐霊や開運についての本を出版したりしていてそれなりに有名人であった。特に心霊写真やビデオを扱ったテレビ番組には必ずといっていい程出演していた。何が何でも幽霊の存在を信じない者、霊感のない者でも愛子の言うことは信用している者もいた。 愛子はこの1ヶ月前に歩道橋の階段で転倒し、頭を強く打ち脳挫傷で死亡した。享年85歳であった。 愛子が亡くなる前日の朝、敦子は父と母と愛子と朝ごはんを食べていた。 「敦子は今日も学校かい?」 「そうだよ」 「学校楽しいかい?いじめられたりしてないだろうねぇ?」 「大丈夫だよ、楽しいよ」 「…敦子」 「…何?」 「彼氏はまだか~?」 「…まだいないよ」 愛子は極度の心配性で、毎日のようにこのように敦子に尋問していたのである。この日、敦子が家を出る時も 「敦子、学校は気をつけて行くんだよ。」 「……」 「最近は自転車も車も危険な奴が多いんだから。それからスマホだっけ?見て…」 「毎日毎日うるさいよ!わかってるってば!少しは自分の心配もしなよ」 そう言って敦子はドアをバタンと閉めて家を出ていってしまった。そこに居合わせた父、圭一郎が 「そうだぞ、母さん。俺たちの心配ばかりしてないで自分の心配もしたらどうだ」 「何だい、圭一郎まで…」 「だいたい母さんはもう若くないんだから。この間だって道で普通に歩いてただけでつまづいて転けてケガしただろ。もっと気をつけてくれないと長生きできないぞ」 「…ったく、みんなで年寄り扱いしやがって。せっかく心配してあげてんのにさぁ…だいたいこれ以上長生きしなくたっていいんだよ」 愛子は不機嫌そうにこう呟いて自分の部屋に戻っていった。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!