座敷童子猫の心の痛み

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 あの時を思い返すと、つい涙が出てしまう。 「アキ、どうした。もしかして、泣いているのか」  ――いったいどうしたのだろうか。悲しい夢でも見ていたのだろうか。  さっきまで丸くなって寝ていたはずだけど。どうも、いつもより暗い表情している。あまり表情を変えない子だけどずっと一緒にいるとちょっとした表情の変化に気づくようになった。相変わらず片言で棒読みな話し方は変わりないが。  アキは、座敷童子猫だ。巷で噂されている幸せを齎(もたら)す座敷童子とはちょっと違う。祖父の栄三郎がそう名付けてしまったそうだ。座敷童子猫のアキと。確かに絣の着物姿は、座敷童子っぽい気がする。なぜ着物を着ているのかは定かではないが。あまり、言いたくないこともあるのだろう。幽霊や物の怪が見えてしまう自分には、着物を着た幼い男の子がそこにいるという認識しかない。座敷童子猫というだけあって、人のようで猫のような顔立ちをしている。  ――人によっては怖いと思ってしまうかもしれないが、俺には無表情でも可愛いと思うぞ。それにアキを見ていると、不思議な力を持ち合わせているとは到底思えないんだよな。けど、物の怪なんだよな。
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