座敷童子猫の心の痛み

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「猫ちゃん、ダメ」  追いかけてくる武の声は聞こえたが、走り続けてしまった。 「猫ちゃん、僕をひとりにしないで」  武のその言葉に、ひたと足を止めた。  あまりにも空の大きな鳥が怖くて冷静さを失っていた。家のほうへ向かえばきっと大丈夫だと思ってしまった。  ――そうだ、ひとりぼっちは嫌だ。武もひとりぼっちは嫌なんだ。  武の両親は、空から降ってくる何かに殺されてしまったと言っていた。爆弾だといっていただろうか。焼夷弾とか言っていたような気もする。  あっ、しまった。  地面に何かが突き刺さり、突如として炎が噴き上がる。近くの家の瓦を砕いて突き破り、同じように煙とともに天高く燃え上がっている。一気にあたりは火の海と化していく。あれが焼夷弾というものらしい。このままでは炎に包まれてしまう。逃げなくては。  振り返ると、武が呆然と立ち尽くしていた。火の海と化した家々に圧倒されて棒立ちになっているようだ。  ――どうしよう。僕のせいだ。こんな危ないところに連れて来てしまった。こっちへ来たのは間違いだった。  熱い、煙たい。死んでしまうかもしれない。そんなの嫌だ。  ――武、どうしよう。僕、死にたくないよ。  武に必死に呼びかけて正気に戻そうとした。 「あ、猫ちゃん。逃げよう」  ――そうだ、逃げなきゃ。
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