6人が本棚に入れています
本棚に追加
「猫ちゃん、ダメ」
追いかけてくる武の声は聞こえたが、走り続けてしまった。
「猫ちゃん、僕をひとりにしないで」
武のその言葉に、ひたと足を止めた。
あまりにも空の大きな鳥が怖くて冷静さを失っていた。家のほうへ向かえばきっと大丈夫だと思ってしまった。
――そうだ、ひとりぼっちは嫌だ。武もひとりぼっちは嫌なんだ。
武の両親は、空から降ってくる何かに殺されてしまったと言っていた。爆弾だといっていただろうか。焼夷弾とか言っていたような気もする。
あっ、しまった。
地面に何かが突き刺さり、突如として炎が噴き上がる。近くの家の瓦を砕いて突き破り、同じように煙とともに天高く燃え上がっている。一気にあたりは火の海と化していく。あれが焼夷弾というものらしい。このままでは炎に包まれてしまう。逃げなくては。
振り返ると、武が呆然と立ち尽くしていた。火の海と化した家々に圧倒されて棒立ちになっているようだ。
――どうしよう。僕のせいだ。こんな危ないところに連れて来てしまった。こっちへ来たのは間違いだった。
熱い、煙たい。死んでしまうかもしれない。そんなの嫌だ。
――武、どうしよう。僕、死にたくないよ。
武に必死に呼びかけて正気に戻そうとした。
「あ、猫ちゃん。逃げよう」
――そうだ、逃げなきゃ。
最初のコメントを投稿しよう!