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アキは、武を思い涙した。
あのときを思い出して。
そのあと、栄三郎と出逢ったことも思い出す。
武の屍の横で寄り添い寝ていたときに、栄三郎は抱き上げて優しく声をかけてくれた。栄三郎は、安全な田舎街まで連れて行ってくれた。疎開とか言うらしいとあとで知った。けど、田舎でもあの恐ろしい大きな鳥と出逢うことはあった。どこに行っても怖い思いはついてくるものだ。
人とは恐ろしい生き物だと思ったのもその頃だ。ただ、全員がそうじゃないと知ったのもその頃だった。武や栄三郎との出逢いがなければ、そんなことは思わなかったかもしれない。
そう、あれは戦争というものだ。
今なら、わかる。なぜ、人はそんな恐ろしいことを行うのだろうか。
二度とあんな思いはしたくはない。
町のあちこちで灰のような遺体が置かれ、敵国の爆撃や艦載機の攻撃から逃げ惑う日々がやってこないことを祈る。ときどき、テレビのニュースで似たような情景を目にすることがあるが今でも戦争というものを行っているところがあるのだろうか。
アキは、ブルッと身体を震わせてかぶりを振った。
――いやだ、いやだ。彰俊は僕を置いていったりしないよね。いや、いってしまうのだろう。人の寿命は長くはない。まだ先のことだとしても、いずれはひとりぼっちになってしまうのかもしれない。僕は物の怪だもの。人より早くあの世に逝くことはない。栄三郎や彰俊みたいな人が現れてくれたらいいけど。今は、そんなこと考えることじゃないかな。
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