座敷童子猫の心の痛み

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 今は楽しいから、それでいい。  あのころはただの猫だったけど、今は栄三郎の蔵にいる付喪神のおかげでいろんな能力を身につけられた。猫としての寿命は尽きても、物の怪として復活した。そのときの栄三郎の嬉しそうな顔が蘇ってくる。  そう、役に立ててよかった。  彰俊の役にも立ちたい。優しくしてくれる彰俊のためにも。  ほら、また心配そうな顔をして彰俊が近づいてきた。 「アキ、本当に大丈夫なのか」 「大丈夫」 「そうか、ならいいけどな。あまり悩むんじゃないぞ。俺が一緒に考えてやるからな」  ――ありがとう。  そう言葉を口にしようとしたが、詰まってしまった。そのかわりほろりと涙が頬を伝った。 「ああ、アキを泣かしやがって。阿呆、唐変木」 「おまえは黙っていろ、トキヒズミ」 「黙れ、トキヒズミ」 「はいはい、黙りますよ。まったくアキにまでそんなこと言われたら黙るしかないじゃないか」  時歪はすごすごと奥の部屋へと引き上げて行った。 「アキ、泣きたいときは泣けばいいさ」  ――やっぱり優しいな彰俊は。思い出したくはない悲しい思い出だけど、武のことは忘れるわけにいかないからな。時が来たら、彰俊にも武の話をしてあげよう。今はまだ胸が痛むから無理だけど。  あ、時歪に悪いこと言ってしまったかも。口は悪いけど良い付喪神なんだ、時歪も。
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