八月

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なんて表現したらいいだろう。 人にはそれぞれ、されたら嫌なことや触れてほしくないことといったボーダーラインが多少なりともあると思う。 他人のその線が、彼女には実際に引いてある場所よりずっと手前に見えている……とでもいったらいいか。 相手にしてみたら気分を害しようもないことでも、彼女にとってはどうするべきか悩みにもなり不安にもなり得る。 結果、躊躇し踏み出すのをやめてしまう……そんな風に見えるのだ。 親しくなってきた私ですらそう感じることがあるんだから、他のクラスメイトなら殊更だろう。 人によっては壁を感じたり、はたまた、近づくことを諦めてしまったりするんじゃないか……それが心配で。 けれど、杞憂だったのかもしれないと、ここ最近の彼女を見て思う。 *** 「──お待ちかねのハチマキが届いたぞー」 週1回のLHR。 球技大会が2週間後に差し迫ったこの時期は、その時間も大抵練習にとあてられる。 梅雨の最中ながらも太陽が覗いた今日は絶好の練習日和。 にも拘わらず、体育館やグラウンドではなく教室に生徒を集めたことが不思議だったんだけど……成程、そういうこと。 飛んでいたブーイングも楽しげなざわめきに早変わり。 「お前ら、現金だな……」と呆れ顔で眺めた先生に、「素直なんです!」とキッパリ訂正したクラスのムードメーカーこと羽田くんの発言で、教室はどっと沸いて更に楽しげな雰囲気を増長させる。 その中で一人、戸惑いを顔に浮かべ、頻りにキョロキョロとクラスメイトの様子を窺う子が。 須賀さんだ。 なんでそんなリアクションなのか首を傾げたところで、はたと思い至る。 ……あれ?もしかして…… 「私、ハチマキのこと言ってなかった……?」 「う、うん…」 「うわー、ごめん!すっかり話した気になってたよーっ」 手を顔の前で合わせて拝むように謝ると、首と両手を横に振って「そんなっ、謝ることないよ」とあわあわして私を宥める須賀さん。 そんな私達のやりとりに食いついたのは、羽田くんだった。
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