八月

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「なら俺がわかりやすく説明しちゃうよっ♪」 立ち上がり半腰姿勢で振り向いて、意気揚々と自分を指差しアピールをする……が。 「せんでいい。羽田の説明で須賀がちゃんと理解できるかいまいち不安だからな」 と、先生にすげなく却下される。 「んじゃま、その役目は中谷に任せるとして。 列毎に配るから、自分の分取ったら後ろに回してけ。で、受け取った奴から練習行っていいぞー」 サボった奴はデコピンな、と付け足して、先生は一番前の席の子達に人数分のハチマキを渡していく。 「ひでーよ、先生」なんてブー垂れる声には全く取り合わずに。 ……どんまい、羽田くん。 割とお馴染みの光景なだけに、心の中で慰めるに留まったのだけれど、私の隣から思いがけず声が上がった。 「あ、あのっ」 「……えっ、お、俺?」 須賀さんから声が掛けられるとは思ってなかったんだろう、羽田くんはキョロキョロと周りを見渡してからやっと、自分にだと認識したようだ。 上擦った返答に「は、はい」と吃りながら頷いて、須賀さんはおずおずと切り出した。 「その……さっき、ああやって言ってもらえて……う、嬉しかった、です」 「え……」 「それで、ですね……も、もしまた別の機会があったら、その時は、お、お願いします…っ」 いっぱいいっぱい、といった風に言葉を紡ぎ、ペコリと頭を下げた須賀さんに、羽田くんは数秒を要したのち、誤作動を起こしたように高速でコクコク頷く。 「も、勿論!俺でよければいつでも!」 それを聞いて、ほっとしたように頬を緩める須賀さん。 その言葉にも律儀にお礼を口にした彼女だけど、当の羽田くんはやたらとハイになっていて気付かない。 ……この分だと、回ってきたハチマキを差し出している風祭くんにも、その彼が少し不機嫌顔なのにも…… 「よっし、野郎共!気合い入れて練習だ!」 うん。やっぱり気付かないか。 俄然やる気が上がったことを惜し気もなく晒しながら教室を出ていく羽田くんに、風祭くんもまた、隠すことなく溜息を盛大に吐き出す。 それでも、彼の分のハチマキを本人の机の引き出しに突っ込み、残りのそれを後ろの席へと回すと、何人かの男子に声を掛け、追うように教室を後にした。
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