八月

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気持ちはわかるけど、なんていうか…… 「ほんと『素直』な人だわ、羽田くん……」 「いやー、やっぱ『単純』の方がしっくりくるって」 揶揄するように呟いた言葉に、悪びれることなくさらりと返したのは、いつの間にか私達の近くに来ていた栗崎奈緒こと奈緒ちゃんだ。 続けて、「須賀さんもそう思わない?」と彼女の目線の高さに合うようにしゃがみこんで、悪戯な笑みを向ける。 「えっ!?えと、その……」 「こらこら、困らせないの」 ただでさえ返答しづらい問い。 羽田くんに対してなんでそんなことを言うのかもわかってない様子の須賀さんにとっては、更に難題だろう。 庇うようにたしなめれば、奈緒ちゃんは悪ノリしちゃったとばかりに可愛くペロッと舌を出した。 さっきの発言といい、こういう無邪気さが憎めないキャラたる所以かもしれない。 「なぁんて、あたしも羽田っちのこと言えないんだけどねー。 今年んのキレーな色だから、超テンション上がったもん♪」 はい、これお二人さんのね、と差し出されたのは件のハチマキ。 どうも回ってこないと思ったら、彼女が確保していたらしい。 「わぁ…ありがとうございます……っ」 ハチマキを大切そうに両手で受け取り、きらきらした瞳で眺める須賀さんに、奈緒ちゃんは満足げに微笑む。 元から気兼ねない性格で、須賀さんに話し掛ける姿も度々目にしていたけど、今回ソフトボールのチームメイトになってからはそれが顕著になったように思う。 バレー部でチームを纏める内に培われた、エースとしての性もあるかもしれないけど……ただ単純に、この顔を見たくて直接渡しにきたのかも。 「おや~?美也っちったら、なぁににやけてんのぉ?」 「今の奈緒ちゃんに言われたくないけどね。 ただ、ほんとにいい色だなって思ってたの」 ツンツンと頬をつついてからかうにんまり顔の奈緒ちゃんを、ほんとの理由は内緒にしてかわす。 でも、嘘は言っていない。 淡いパステルブルー。 空の色を模したような絶妙な色合いは、爽やかで可愛らしい。 隣で須賀さんもコクンと頷く。 「うん。この色、好き…」 「だと思った。須賀さん、パステルカラーの小物多いし」 「そうなんだ?じゃあ今年はほんとアタリだね♪」
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