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いつからかは定かじゃないことからして眉唾物だけど、それを初めてしたクラスが優勝した、なんて話が始まりらしい。
それは受け継がれていく内に少しずつ形を変え、今では勝利のジンクスというよりは、親睦や思い出作りとして生徒に親しまれる行為となっている。
「そーいえば、美也っちと仲良くなったのもコレが切っ掛けだったよね」
「そうだったね。懐かしいなぁ」
そんな会話をしていると、須賀さんは「そうなんだ……」とやや頬を紅潮させてから、ポツリと漏らした。
「だったら……チームの皆と書きたいな……」
きっと無意識だったのだろう、彼女ははっと口許に手を当てた次の瞬間には、顔を真っ赤にして俯く。
けれどそれも束の間、意を決したようにハチマキをきゅっと握ると顔を上げ、私と奈緒ちゃんを交互に見つめた。
「わ、私…っ、書くなら、皆とがいいなって。よければ、なんですけど……だ、ダメかな……?ダメ、ですか……?」
少しずつ声は尻すぼみになっていくけど、目線は決して下げない須賀さん。
そんな彼女に最初に反応したのは呆けたままの私ではなく、奈緒ちゃんだった。
「全っ然、ダメじゃないよ!寧ろ嬉しいし!ね、美也っち」
「え……あ、うん。じゃあチームの子達に声掛けないとだね」
「み、皆、いいよって言ってくれるかな……」
「そんなの当たり前!いらない心配だって」
須賀さんの肩をぽんっと軽く叩き、ウインクする奈緒ちゃんと、それを受けて頷きながら破顔する須賀さんとを見て、じわじわと胸にあたたかいものが広がる。
最近まで、あんな風に自分の意見を発信することはほぼなかった。
相手の反応を気にして、伝えることを躊躇って、内に閉じ込めて──それが、須賀真知留という人だっだ。
羽田くんに声を掛けた時も思ったけど……そんな彼女が、少しずつ、確かに、変わってきたと感じる。
いつから、とはハッキリ断言できないものの、その切っ掛けを与えた人物には心当たりがあった。
多分、きっと……風祭くんじゃないかって。
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