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「ええっ!?」
驚きに声を上げた奈緒ちゃんの横で、そういえば、と思い出す。
確か以前、3つ歳の離れたお兄さんがいると須賀さんは言っていた。青華大に通ってるのだと。
ただ、どんな人なのかは詳しく話したがらなかったから、その時は身内の話は気恥ずかしいんだろうと軽く流したけれど……。
「お兄ちゃん、て……だ、だってすっごく仲睦まじげで超ラブラブな感じだったって言ってたよ!?」
「……凄まじい誤解ですね」
奈緒ちゃんへ返すその声には覇気がない。
ついでに言うなら、やんわり笑みを浮かべているものの目は笑っていない。
心外だという思いがひしひしと伝わるし、同時に、相当溺愛されているものの、お兄さんのその愛はほとんど一方通行なんだな……と悟ってしまった。
「そ、そっかー。じゃああれだ、その子にもちゃんと訂正しとくよ、うん」
「あ、はい。そうしてもらえると助かります」
須賀さんの雰囲気に気圧されてか、それ以上は突っ込むべからずと奈緒ちゃんも本能的に察したようだ。
取り繕うようにそう言えば、須賀さんは安心したようにやっと顔を和らげた。
……でも、ほんとに“安心”なんだろうか。
なんだか胸騒ぎがする。
噂は、一度立ってしまうと広がるのはあっという間だ。
学校という場所は思いの外狭く、年頃の男女が集まっているだけに、恋の話題はかっこうのネタでもある。
なんてことない話に、尾ひれがついて大袈裟になることだって多々あるし、面白ければ真偽はどうでも構わないと思う人も少なくない。そのまま鵜呑みにしてしまう人もまた然り。
勿論そうでない人だっているけど……うちのクラスはどうだろう。
なにより、もし彼の──風祭くんの耳に入ったら……。
さっきの羽田くんへの反応は元より、私にすら時折物言いたげな視線を寄越す彼だ、全く気にしないというのは考えにくい。
彼の行動如何では、須賀さんにだって影響が……。
考えすぎだろうか。
でもこの事が、何かしら波風を立てる予感がしてならない。
これもただの杞憂だったらいいんだけど──…
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