十月

7/15
前へ
/158ページ
次へ
(3/10) 「ありがとうございます。 でも、私のは気合いというか……ヘタっぴなので、単に練習しなきゃダメなだけで……」 バットを受け取りながら苦笑いを零す。 だけど、返ってきたのは意外な言葉で。 「いや、さっき見て思ったんだけど、こないだの体育ん時よりすげー上達してね?」 「あ、私も思った!なんだろ、フォームが自然になったっていうか」 「え…っ、ほ…ほんとですか……!?」 高峯さんと、その彼女にすかさず同意した栗崎さんとを目をまんまるにして見れば、「マジマジ」「ほんとほんと」と頷く動作までハモった2人。 私自身、目掛けたとこに投げられれたりとか、以前より大分マシになったようには感じていたけど、端から見ても成長しているんだと知れて、じわじわと喜びが胸に広がる。 うわぁ…嬉しい……っ。 やったよ、先生……! バットをぎゅうっと握り締めて、心の中で呼び掛けるように報告する。 先生、と言っても相手は担任の忍足先生とか学校のどの先生でもなく……風祭くんだ。 『……あ?須賀? どうしたんだ?こんな時間にこんなとこで』 数日前の放課後。 体育館裏で壁を相手に練習していた私に声を掛けてきたのが彼だった。 こっそりのつもりだったから少し気恥ずかしかったけれど、ワケを話せばなんとレクチャーしてくれるとの申し出。 このままじゃいつまで経っても上達の見込みはないと目に見えてただけに、願ってもないことで。 『よろしくお願いします、先生』 と神妙に頭を下げれば、ふ、と笑って『おぅ』と快く応えてくれた風祭くんは、私のフォームを見た上で、ボールの持ち方から投げ方など、一から丁寧に根気よく教えてくれた。 そういえば、昔──あの頃にもおんなじようなことがあった。 あの時はサッカーだったっけ。 ボールを意のままに操るシュウくんを羨ましげに見ていた私に、やってみるか?と声を掛けてくれたはいいけど、やっぱりシュウくんのようにはまるでいかなくて。 それでも、呆れることなく何度だって教えてくれて、そして────。 『!み、見ました!?今、ちゃんと的に……!』 見事命中させることができて、飛び上がらんばかりに喜んで振り返った私に、彼は。 『やったな、須賀』 -やったな、マチ!- ああ…そうだ。 あの時も嬉しそうにおんなじ顔で笑ってくれたんだ。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加