六月

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*華ハル 【問いの答え】 転校から一週間。 まだ通い始めて間もないのに、こんなに軽い足取りで学校へ向かうのは、ほとんど初めてかもしれない。 「あ、須賀さん。おはよー」 「お、おはようございます…」 教室の扉を開く音で気づいたのか、私の隣の席の女の子──中谷さんが振り返ってにこやかに挨拶をしてくれる。 他の人からしたらただの挨拶でそれだけのことって思われるかもしれないけど、私には“それだけのこと”がついどもってしまうくらい、こそばゆい。 「あらら、昨日言ったのに早速敬語かぁ」 「あ…っ、えと……」 「なーんて。徐々にでいいし、話しやすい方で大丈夫だからね」 中谷さんはクラスの委員長を務めるしっかり者で、気配り上手な上にすごく気さくだ。 ううん、中谷さんだけじゃない。 このクラスの人達は親切で人懐こい人ばかりで。 今だって教室の扉が開く度に「おっはよー!」なんて元気な声や、「おはよ…」と少し眠そうな声が、私を取り残すことなく向けられる。 こんなこと、今までいた学校ではなかった。 どこか“転校生”という壁が持たれて、持たれているのがわかるから余計萎縮してしまって。 次第に挨拶すらまともに交わせなくなるなんて、ざらだったから。 だから、ここも同じだと思ってたけれど……それは狭い世界にいただけだったのだと日を追う毎に教えてくれる。 初めてこの教室に足を踏み入れた時の、あの不安や憂鬱は今やウソみたいだ。 転校先がこのクラスでよかったなぁ……。 ただ、そんな風に思えるのは、中谷さん達だけが理由じゃなくて── ──ガラッ。 「うーっす」 っ! 思い浮かべていた人物のタイミングのよすぎる登場に、心臓がぴょんと跳ねた。 そしてそのまま、トクトクと鼓動が早いリズムを刻み出す。 風祭くん──シュウくんにすごくよく似たその人は、転校してからこっち、私の胸を騒がせてやまななくて。 教室のあちこちから上がる「おはよう」の声に紛れるように、他のクラスメイトに向けるものより小さくてぎこちないそれを発するだけで精一杯になってしまう。
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