六月

8/15
前へ
/158ページ
次へ
情けない話、まともに話せたのは転校初日、校内を案内してもらったあの時だけ。 それだって、初めはすごくぎこちなかった。 必要以上に緊張していたし、『今日は』だなんて気を悪くさせるような言い方をしてしまって。 彼がシュウくんかどうかもわからないのに、『須賀』って呼ばれることに、『風祭くん』と呼ぶことに言い様のない違和感があったのもその一因だと思う。 だけど。 歩くペースを合わせてくれたり。私の希望を聞きながらも、効率よく廻れるよう考えてくれたり。 ちょっとした呟きもおざなりにせず、拾い上げて会話を広げてくれたり。 そんな気遣いや楽しげな顔に触れるたび嬉しくて、そのひとつひとつにどこかシュウくんを感じたりして……緊張も自然に解れていって気付けば笑っていた。 ……それでも、私は未だ“風祭くんはシュウくんなのか?”の問いに答えを出せずにいる。 ずっとシュウくんと呼んでいたからかフルネームも思い出せない、このあやふやな記憶のせいもあるけれど……風祭くんが私を知っている素振りがない、というのが大きい。 気付いてないだけ? それとも、人違い……なのかな……。 でも、他人のそら似だというには、私の中で日に日に膨らんでいく懐かしい感覚が邪魔して、どうしても頷けない。 本人に聞くのが一番の近道だってわかっているけれど、今みたいに友達に囲まれていることの多い彼に話し掛けるのはハードルが高いし、もし本当に人違いだった場合、勝手に重ねて見られてたなんていい気はしないはずで……。 考えれば考えるほど躊躇いが生まれて、なのに気になってしょうがなくてまた考えてしまう……そんな悪循環から抜け出せない。 ぐるぐる回り廻るそれにすっかり囚われて悶々としていると。 image=500571379.jpg
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加