六月

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「須賀さん?どうしたの?なんだか難しい顔してるけど……」 「え……あ、す、すみません…っ、なんでもないです」 「……そう?」 私の顔を覗き込むようにしてどこか心配そうに窺う中谷さんに首を振りながら答えたけれど、半信半疑な様子からして、どうも誤魔化しきれてないっぽい。 だからといって、何かとよくしてくれる優しい彼女に打ち明けて、悩みに付き合わせてしまうなんて、そんなの……。 どうするべきか、どう言うべきかなかなか出てこなくて口ごもっていると、中谷さんが何か思い付いたように「あ、そうだ」と声を上げる。 そして続いた言葉は意外なものだった。 「ね、今日の放課後、空いてる?」 *** 空も校舎も茜色に染まった放課後。 校門に差し掛かったところで、中谷さんの足と彼女が押していた自転車がゆるりと止まる。 「今日、突然だったのにありがとね。すっかり付き合わせちゃったけど、疲れてない?」 「いえっ、あの、すごく楽しかったです」 中谷さんに誘われてお邪魔させてもらったのは、彼女の所属する茶道部。 慣れない正座に足が痺れたり、お抹茶が苦くて少しむせたりなんて恥ずかしいハプニングはあったけれど、初めて触れるお作法は新鮮で興味深くて、そこに漂う空気はしゃんと背筋が伸びるような…心が凪ぐような…心地のいいものだった。 「そっか、ならよかった」 どこか安心したように微笑む中谷さんを見て思う。 勘違いだったり自惚れじゃなければ……悩んでた私を心配してくれて、気分転換にって誘ってくれたんじゃないかって。 詮索するでもなく、押し付けるでもない、さりげない気遣いに気付いたら、たちまち胸がいっぱいになって。 「あの……中谷さん」 「ん?」
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