六月

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見上げれば、振り向いた彼の顔は何やら躊躇いを浮かべているようで、ざわりと胸が騒ぐ。 も…もしかして、別々に帰ろうって言われ… 「……隣…に、並んでくれると、歩きやすいんだけど」 「……え……?」 「一応っつーか、ボディーガード?も兼ねてんだし……」 右手を首に当ててちらっと窺うように私を見た風祭くんは、その視線を自分の右隣へと促すように流す。 「あ……その…じゃあ、し、失礼します……」 思いもよらない言葉に、手足が左右一緒に出てしまいそうになりながら横に並べば、隣からはふっと小さく笑う気配。 歩き出した足は1週間前と一緒で、私に揃えるように合わせられていて。 現金なことに、さっきまでの不安ははらりとほどけて、浮かばなかった話題もいつの間にか口から出ていた。 「あの……助っ人、よくしてるんですか……?」 「あー、さっきの話か。 よく、つーか……まぁできる範囲でな。サッカーだけじゃなくて体動かすのは好きだし」 「え、じゃあ他の部活も助っ人を……?」 「おお。まーな」 「わ…すごいです……!こなせるのもですし、色んな人から頼りにされてるんですね」 「……だから、なんも出ねーって」 なんも、なんて。そんなことない。 困ったような、少し照れくさそうに見えるはにかんだ横顔。 こんな風に会話ができることだって、私に『嬉しい』をくれてるんだよ。 ……なんてことは言えないから、とっさにさっきの中谷さんの真似をしてみる。 「ざ、残念です……?」 「ふ。疑問系って。どっちだっつーの」 それこそ残念な出来損ないの真似っこを、風祭くんは握った手の甲を口に当てて可笑しそうに突っ込んでくる。 またくれた『嬉しい』を噛み締める……手前で、目に映り込んだものが思考を塗り替えた。
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