七月

12/25
前へ
/158ページ
次へ
思えば、今まで学校のことを聞かれたりなんて、ほとんどなかった。 聞かなくても、私の態度からなんとなくでも気付いていて……きっと、心配させていたんだと思う。 ……嫌いになれないのは、そんなとこがあるからなんだろうな。 「真知留たんがされるがまま…だと……!?こ、これはハグもオッケーのサイン!?」 「違うから」 こんなとこは、ほとほと呆れてしまうけれど。 「やー、それにしてもその中谷ちゃん、一度会ってみたいわー」 「中谷ちゃん、て……。 私が美人さんだよって言ったからでしょ?」 「そんなこと!……もある、かなー。あはっ」 「…………」 本日2度目のジト目を向ければ、「や、ちょっとだけだし、ね?ね?お兄ちゃんとして、気になるってのが大半だから!」なんて言い訳を並べ、更には。 「だからさ、今度ウチに遊びに連れといでよ。なんなら、他の子も一緒にさ」 とんでもないことをさらっと宣った。 ウチに、ってそんな気軽に……! も、勿論来てくれたら、すごく…すごく嬉しいけど……っ。 でも、中谷さんはともかく、他の子だなん、て…… 「…………」 ────って、いやいやいや! なしなしっ、今の、なし! 自分の意に反してぽんと浮かんだ顔を追いやるように、ぶんぶんと首を左右に振る。 「──…だろ?ほら、俺も腕奮うしさ……って、真知留?どした?」 「え!?ど、どうもしないよっ?」 「けど、顔が赤…」 「あっ、もう駅だから行くね!」 お兄ちゃんの言葉を遮って、見えた駅へと脇目もふらず一直線。 バタバタとその構内へと駆け込んだ。 足を緩めながら鞄のポケットから定期を取り出し、改札を抜ける。 電車はついさっき行ってしまったようで、ホームの人混みはそれほどでもなく、私は漸くほっと息をついた。 それでも。 胸がドキドキと未だ早いリズムを打つのは、走ってきたからだけではきっとなくて……。 もう、お兄ちゃんがあんなこと言うから……っ。 さっき隅へと寄せたはずの顔が、またふわりと舞い戻るように浮かぶ。 と同時に、私の視線は線路を2つ挟んだ向かいのホームに自然と留められた。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加