七月

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*** 「おーい、そろそろ片付け始めろよー!」 1限目の体育の授業も残りあと5分程になった頃。 キャッチボールをしていた私達に先生が終わりを告げる。 球技はあまり得意じゃないけど、私が投げたり受けたりするたびに中谷さんが「お、いーね」とか「ナイス!」なんて言ってくれるから、なんだかうまくなったような気分になって。 「目指せ優勝!」なんて楽しげに盛り上がる中に自分がいられることが嬉しくて、気付けば熱中していた。 我ながら単純だなぁと思いながら、少し惜しみつつグローブを外していると。 「あ、最後に入れた奴が倉庫まで運ぶ係だからな」 ボールとグローブが入っていた箱を指して、にやりと笑う先生。 その途端、私と同じように名残惜しんでいた周りの空気が一変した。 「次、もしかして数学!?」 「しかも今日って半月に一回恒例の小テストデーじゃない!?」 「抜き打ちじゃないだけマシだけど、70点以下は居残りとか……!せめて60点にしろっての!」 「いや、そんなこと言ってる場合じゃないって!」 居残り断固阻止、の色が皆の目に宿る。 まとまりのいいクラスだなぁとは思っていたけど、こんなとこでも発揮されるらしい。 一分一秒でも無駄にしてなるものかと、皆我先にと箱へとまっしぐら。 ……結果、最後になったのは私だった。 正確には中谷さんも同時だったのだけど、「中谷大先生っヘルプ!」の切実な声と共に、半ば引き摺られるようにグラウンドを後をすることに。 申し訳なさそうな目線で振り返る彼女に、気にしないで、と口パクで伝え、笑顔で手を振り見送ってから私は箱へと向き直った。
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