七月

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……さてと。 着替える時間もあるし、さっさと片付けちゃわなきゃ。 グローブの箱の上にボールのそれを重ねて持ち上げる。 「よ、っと……」 わ、思ってたより重…… ……く、ない……? 手元が不意に軽くなったことと、箱の上蓋に影が落ちたことに気付いたのは同時だった。 不思議に思って見上げると…… 「え…っ、か、風祭くん……!?」 目の前にいたのは、まさかの人物で。 「……その顔、よくするよな」 見開いた目に映った彼はふっと笑って、私の手元から完全に箱を取り上げた。 「か、風祭くんっ。あの、私、運べますから……っ」 「よろけてたように見えたけど?」 「そ、それは……。あ、だったらボールだけでも…」 「言っただろ?高校生男子の体力舐めんなって」 力だって相応にあんだよ、と付け足された言葉通り、風祭くんは軽々と運んでいく。 なんだか最近、彼には助けられてばかりだ。 昨日だって、黒板の上の方の文字に黒板消しが届かなくて手間取っていたら、さっと消してくれたし。 廊下でふざけあっている男子達がいて、声を掛けにくくてなかなか通れずにいた時、代わりに声を掛けてくれたこともあった。 困っている人を放っておけないとこ、昔とちっとも変わってない。 それが嬉しくて、でも……だからってこんな風に何度も甘えてしまっていいのかな? こんな手のかかる子、嫌じゃないかな?迷惑じゃないかな? ……そうだよ。 ただの、クラスメイトなのに。 「…………」 今朝の考えが頭をもたげて、それを否定できなくて。 「あの…、やっぱり自分で運びます」 「……は?なんで?」 「その……、き、着替えもありますし、ほら、数学の小テストも……だから……」 言い訳を並べながら、箱を返してもらおうと両手を差し出すけど、そこに箱が乗る気配はない。 「着替えなんてすぐだろ。テストにしたって今更慌てるようなことでもねぇし。 大体、それ言ったら須賀だって同じだろ」 しかも、事も無げにそんな風に返されてしまえば、私にはそれを論破できるような更なる言い訳の持ち合わせもなくて。 「そ、そう…ですけど、でも…」 それでももごもごと悪あがきをしていると、「あのさ」と少し低くなった声がそれを遮った。
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